自治医科大学 分子病態研究部 - 生体分子イメージング手法を組み入れた生活習慣病(肥満・糖尿病・血栓止血領域等)を対象とした基礎研究部門

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血友病研究

血友病とは?

私達の体は、血管が傷つき出血が生じると、その出血を最小限にするために,出血を止めるための機能(止血機構)が働きます。止血機構には、主に血液細胞である血小板と、血液中の蛋白質である凝固因子が関与します。血友病とは凝固因子の中でも第VIII因子、または第IX因子が足りなくなる遺伝性の疾患です。第VIII因子の欠損が血友病A,第IX因子因子の欠損が血友病Bとしてしられています。日本全国に約5,000人程度の患者様が登録されています。治療は、凝固因子製剤の投与になりますが、過去のHIVやHCVなどの血漿由来感染症が大きな社会的な問題となっています。現在では、リコンビナント(遺伝子組換え)製剤が開発され、感染症のリスクは減じていますが、製剤の半減期は数時間と短く、頻回の投与の必要性が血友病患者の生活の質(QOL)を著しく阻害しています。

血友病に対する遺伝子治療法
脂肪細胞

図1 血友病に対する遺伝子細胞治療
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私達の教室では、血友病の治癒を目指した遺伝子治療法の開発・応用を目指しております。血友病は単一遺伝子異常であり、凝固因子の治療域の幅が大きいために、遺伝子治療の対象としてよい疾患と考えられてきました。遺伝子異常を細胞レベルで是正することは、現段階では困難なため、正常の凝固因子を体内で発現させる手法が用いられております。ベクターと呼ばれる遺伝子の運び屋を用い、これを細胞にとりこませることで患者細胞に凝固因子を発現させることが可能です。この遺伝子治療は大きく分けて、ベクターを直接患者に投与し、患者細胞から直接凝固因子を発現させる手法と凝固因子を発現させた細胞自身を患者に投与する細胞治療に分かれます(図1)

脂肪細胞

図2
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脂肪細胞

図3
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ベクターの直接投与による遺伝子治療法

現在はアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を用いた手法が現実的なものとなっています。AAVには様々な型(血清型)が知られており,特にAAV8という型を用いると、経静脈的にベクターを投与するだけで、生理的な凝固因子発現部位である肝臓に効率よく遺伝子導入が可能です。また、この凝固因子発現は長期にわたって維持が可能です(図2)。すでに我々もサルでAAV8型を用いて、血友病Bに対する遺伝子治療の基礎技術を確立し、数年後の臨床試験を目指し、現在は臨床試験レベルのベクター生成を試みています。

この手法は,イギリスにおいて6名の血友病B患者において有望な成績が収められていますが、残念ながら血中にAAVに対する抗体が存在していると、このベクター感染が成立しません。我々は、血友病患者の3−4割程度にこの抗体が存在していることを明らかにしました。この抗体陽性患者に対する新たな治療法として、上腸間膜静脈を介したカテーテル挿入による抗体回避法を世界に先駆けて開発し報告しております(図3)。また、これらの手法は現段階では血友病Bに対する治療開発のみです。より患者数の多い血友病Aに対ししては現実的なものとなっていないのが現状であり、多くの患者様に対して同手法が提供され、血友病の治癒を目指したいと考えております。

脂肪細胞

図4
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脂肪細胞

図5
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細胞治療の開発

胞治療については遺伝子組み込みがされ、長期に遺伝子発現可能なサル免疫不全ウイルスベクター(SIV)を用いています。我々の用いているベクターはサルにも病原性がなく、かつウイルスの自己増殖を起こさない第3世代型の安全性の高いものを利用しております。血小板は止血栓の形成に重要な細胞です。血小板は活性化されると凝集し止血栓の形成に寄与するだけでなく、同時に凝固因子を細胞外に放出します。我々は、この特性を利用した新たな遺伝子治療法を開発しています。しかし、血小板の寿命は1週間程度とみじかく、無核の細胞であるために直接の遺伝子導入が不可能です。そのため、その元となる細胞(造血幹細胞)に血小板・巨核球特異的プロモーターの下流で目的タンパク質を発現するSIVを感染させ造血幹細胞移植を行うことで、血小板への目的タンパク質を発現をさせました(図4)。血小板が血栓形成部位で特異的に凝固因子を発現することにより、血友病Aマウスの出血傾向が改善することが明らかとなりました。また、同手法を応用して血小板内蛋白質のRNA干渉による抑制にも成功しています。

血友病では、繰り返す関節内出血に伴う血友病関節症がQOLを阻害する最も重要な因子です。私達は間葉系幹細胞にSIVを用いて凝固因子を発現させ、関節障害を予防・治療する新たな治療法を見出しています。間葉系幹細胞は骨髄や脂肪組織などから採取が可能で、遺伝子導入により凝固因子を長期に発現が可能です。この凝固因子発現間葉系幹細胞を血友病マウスの膝関節に投与すると、関節出血、関節障害が改善します(図5)。関節内穿刺という侵襲の少ない手法で細胞投与が可能なことから、臨床応用が可能な細胞治療法と考えています。

まとめ

本研究は厚生労働省科研費の補助を受け当教室と自治医科大学遺伝子治療研究部、先端医療技術開発部門、循環器内科との共同研究で行っております。引き続き、血友病患者様に1日も早く、この治癒を目指した本遺伝子治療法を提供できるように研究を継続させたいと思います。